「あの店でも合わなかった」
「次のメーカーを試してみようと思って」
そう言いながらご来店される方に、これまで何度もお会いしてきました。
補聴器は、一度買ったら後戻りしにくい大切な選択です。
慎重になるのは当然のことです。
ただ、指針がないまま動き始めると、何を基準に選べばいいのか分からず、右往左往することになります。
親切そうに見えて、かえって疲れさせてしまう対応もあります。
時間もお金もかけているのに、なぜかうまくいかない。
その理由は、ほとんどの場合、補聴器そのものにはありません。
よくある事例を知っておくだけでも、頭の中はずいぶん整理できます。
25年この仕事を続けてきた中で、特に印象に残っている4つの事例をまとめました。

なぜ補聴器選びで同じ失敗を繰り返してしまうのか
実際の相談事例を見ていると、補聴器そのものの性能だけではなく、購入前の期待・試聴時の判断・調整に対する考え方など、いくつかの共通点が見えてきます。
これから補聴器を購入される方に向けて、「後悔しやすい5つの共通点」をこちらの記事にまとめています。
▶ 補聴器を買って後悔する人の共通点5つCASE 1事例① 補聴器を分かっていない家族に振り回される
高齢のご本人と、そのご家族からのご相談でした。
ご本人は長年、耳穴式の補聴器を問題なく使ってこられた方です。
買い替えの理由も明確で、断音やハウリングといった経年劣化による不具合でした。
使用年数を考えれば、部品の劣化や、耳の形・聴力の変化による不一致が出てくるのは自然な流れ。買い替えは妥当な状況です。
ところが、途中から関わるようになったご家族が、事前に他店で試した耳かけ型の印象が良かったと強くおっしゃいます。
プロの立場から申し上げると、高齢のご本人にまったく違うタイプの補聴器を0からスタートしていただくのは、リスクが高すぎます。
聞こえる・聞こえない以前に、装着そのものが難しくなるからです。
聴力的にも耳型を採ったオーダー耳栓が必要な状況なら、これまで通りのオーダー耳穴式で十分です。
私がご提案したのは、これまでの使用環境を大きく変えない後継モデルでした。
最初の調整段階では、こんなお声がありました。
ハウリング対策のためにシェルをきつめに作っていること、まだ調整の途中であることをご説明し、もうしばらく様子を見ていただくことにしました。

2回目のご来店で実耳測定(耳の中での実際の出力を計測するテスト)を行うと、過剰に出ている周波数が複数見つかりました。
そこを修正して、言葉の聞き取りテストへ。
基準値をクリアし、あらためて印象を伺うと──
スムーズに、そうお答えいただけました。

ようやく、再スタートです。
結果として、以前より性能の上がったモデルに、無理なく移行していただけました。
ただ、その経緯をご家族はご存じありません。
途中から関わったため、プロセスが見えていないのです。
残ったのは、こんな印象だけでした。
適切な提案が、情報不足のせいで「疑惑」に変わってしまう。
もったいない話ですが、こうしたケースは本当に多いのです。
ご本人がこれまで問題なく使えていた補聴器の経験は、何より大切な財産です。
長年の使用実績、慣れ親しんだ操作感、耳の形に合ったシェル。
これをゼロにしてまで「新しいタイプを試す」メリットは、高齢の方にはめったにありません。
途中から関わったご家族には見えていない情報が、現場にはたくさんあります。
CASE 2事例② 何をしてもらったか分からない──現状が見えていない方の場合
他店で購入された補聴器の調整相談です。
ご本人はアプリの調整ヒント機能を使い、ご自分の判断で毎日複数回、補聴器の設定を変えておられました。
その結果、気づけばとんでもない出力状態になっていたのです。

言葉の聞き取り率は70%弱。
そのうえで、たくさんのご要望がありました。
「騒がしい場所でも全部聞き取れるようにしたい」
率直に申し上げます。
聞き取り率70%弱の方に、すべての環境を完璧に解決することはできません。
そこで、できること・できないことを整理するところから始めました。
1回目のご来店では、実耳測定を含む調整に約90分かけて基本となる出力を設定。
場面が変わるときだけプログラムを切り替えていただくよう、ご説明しました。
そして2回目のご来店。開口一番、こう言われました。
前回の90分は何だったのか。
正直、そう思いました。
前回は実耳測定を含め、現在の聞き取り状況を確認しながら、ご本人に合わせた調整を行っています。
つまり、「ご本人の聞こえ」に合わせた調整は、すでに始まっていたのです。
しかし、ご本人の中では「まだ本格的な調整はされていない」という認識になっていました。
伺うと、プログラムの切り替えもほとんどされていません。理由をお聞きすると──
それでも、出力はやや弱めながら、かろうじて聞いていただけるレベルには慣れてきておられました。
今回は小さな声の聞き取りを少し引き上げる調整を行い、「違和感はない」とのことで終了しました。
帰り際、こう言われました。
半年以上うまく合わせてもらえなかった、あの購入店に戻ろうとしているのです。
言葉が出ませんでした。
現状把握ができていないまま調整を重ねても、ゴールにはたどり着けません。
自分の聞き取り力がどの程度か。補聴器で何が改善できて、何ができないか。
この認識がないまま「もっと合う補聴器を探す」という行動に出ても、同じことを繰り返すだけです。
まず現状を正確に把握すること。それが、すべての出発点です。
CASE 3事例③ 「付けているのを忘れるくらいでした」。それでも離れていく
補聴器体験の告知を見てご来店された方です。
低音が聞こえているタイプの方によくある、「自分の声が響いて気になる」というお悩みがありました。
事前に2社のメーカーを選定してお試しいただくと、1社目も響く、2社目も響く。
そこで自分の声を抑える機能付きのランクに変更したところ──
出力調整後の聞き取りテストも良好。少し弱めに設定して、1週間お貸し出ししました。
1週間後。補聴器を付けたまま、ご来店されました。
これは補聴器に関わる者にとって、最高の言葉のひとつです。
初めて補聴器をお使いになる方が、わずか1週間でここまでなじまれるのは、決して当たり前ではありません。

ところが、「効果がわからない」と再度お申し出がありました。
1回目にお渡しした資料の説明を、もう一度最初からしてほしい、とのこと。
聞けば、離れて暮らす娘さんへの説明がうまくできなかったそうです。
娘さんから、こう言われたというのです。
実際は、上から3番目、中間グレードの補聴器です。
さらに、こう続きました。
同じメーカーの話は1回目にも出ており、そのときに「自分の声が響きやすい」「同グレードで価格が1.2倍になる」とお伝え済みでした。
また、その話に戻ってしまったのです。
使用記録を確認すると、1日7時間使用、うち約2割が音楽・通話などのストリーミング。
十分に使いこなせています。
「付けているのを忘れるくらい」の補聴器が、すでに手元にある。
それでも、離れて暮らすご家族の一言が、すべてをリセットしてしまうのです。
「付けているのを忘れる」は、補聴器の適応として最高の状態です。
その状態になっていても、離れて暮らすご家族の一言でゼロに戻ってしまう。
補聴器は、ご本人だけでなく、関わるご家族も含めて理解していく必要があります。
できれば最初のご相談から、ご家族も一緒にお越しください。
CASE 4事例④ 半年間の貸し出し──それは本当に「試せていた」のか
30代の方で、仕事中の聞き逃しが不安で補聴器を検討中とのこと。
お話を伺うと──
他店で、半年近く補聴器を借りている状態でした。
半年間の無料貸し出し。1年の半分です。
他の業界で、そんな製品があるでしょうか。
しかも借りたまま、別の店に相談に来ておられる。
この時点で、すでに何かがおかしいのです。
聴力を確認すると、仕事場での聞き逃し以前に、日常生活でも補聴器が必要なレベルでした。
まずここを整理しないと、クリアすべき問題が積み上がるばかりです。
30代で、仕事上の理由から耳かけ型はNG。
となると、オーダーの耳穴式一択です。

ところが、半年間借りていたのは耳の型を取っていない既製品の耳穴式。
形も出力も合っていない状態で、半年間を過ごしてこられたのです。
当店では、通常1週間の貸し出しを設定しています。
適応できるかどうか、騒音環境への下地があるかどうか。1週間あれば十分に判断できます。
今回は、貸し出し前の段階で例外的に実耳測定を実施しました。
半年という期間の長さに、正直衝撃を受けたからです。
それまでより出力をきれいに整えた状態でお試しいただくと──
半年間、ご本人の感覚に合わせて設定されてきた補聴器では、正しい出力との乖離が大きすぎたのです。
そして最後に、こう言われました。
補聴器にできること・できないことは明確です。
どこで使いたいか。なぜ使いたいか。何年使うか。
仕事を続けるための必須ツールになることが明らかなら、その視点で整理してご検討ください、とお伝えしました。
長期貸し出しは一見親切に見えます。
しかし、合っていない補聴器を長く使い続けることで、「自分には補聴器は無理」という誤った結論を出してしまうリスクがあります。
当店が1週間の貸し出しにしているのは、その1週間で十分に判断できるからです。
期間の長さと丁寧さは、別の話です。
ただ、この事例は販売店だけの問題ではありません。
半年間借りても決断できない。現場で使えないと分かっても「価格を下げて」と言う。
補聴器への動機と覚悟がご本人の中で固まっていないと、どれだけ調整を重ねても着地しません。
何のために、どこで、何年使うのか。その整理が先です。
では、なぜ補聴器がうまくいかないのか
ここまでご紹介したように、「補聴器が合わない」「何店回ってもうまくいかない」という問題は、機種を変えたり、もう一度調整したりするだけでは解決しないことがあります。
補聴器の性能以外に、何を確認する必要があるのか。実際の相談現場から、もう一歩掘り下げてまとめました。
▶ 補聴器がうまくいかない人へ|問題は本当に補聴器だけでしょうか?まだ、無駄なお金と時間をかけ続けますか?
4つの事例に共通しているのは、補聴器を変えても解決しなかったという事実です。
問題は、機種でも価格でもありませんでした。
それぞれに、異なる原因があったのです。
- ご家族の思い込み
- ご本人の現状認識のずれ
- 親切そうに見えて、かえって疲弊させてしまう対応
補聴器がうまくいかない理由を正確に把握し、客観的なデータをもとに最適解を出す。
それが、25年この仕事を続けてきた私の役割だと思っています。
当店では最新の客観測定(実耳測定)を活用し、感覚や経験だけに頼らない調整を行っています。
何店回ってもうまくいかなかった方が、ここで初めて「これだ」と感じていただけることも少なくありません。
回り道をせず、最適解に最短でたどり着く。
そのための相談の場を用意しています。
まだ時間とお金をかけて、店を探し続けますか?
それとも、一度きちんと
原因から整理してみませんか。





