片側が聞こえづらく、補聴器でも効果がない場合の次のアプローチ
「聞こえない側から話しかけられると気づかない」
「車の中で、聞こえない側に座っている人との会話が難しい」
「補聴器をつけてみたけれど、音が大きくなるだけで言葉は分からない」
片側の耳が聞こえづらく、補聴器を使用しても十分な効果が得られない。
このような場合、次のアプローチとしてCROS(クロス)を検討するのも一案です。
一般には「クロス補聴器」と呼ばれていますが、正確には、
という組み合わせです。
悪い側のCROSマイクで拾った音を、ワイヤレスで良い側の補聴器へ送ります。
CROS(クロス)は悪い側の耳を聞こえるようにするものではありません
ここはCROSを考えるうえで大切なところです。
悪い側につけるのは補聴器ではなく、音を拾って反対側へ送るCROSマイクです。
そのため、悪い側の耳そのものの聞こえが改善するわけではありません。
これまで悪い側から問いかけられたり、呼びかけられたりしても反応しづらかった方が、その声を良い側の耳で聞けるようにするものです。
簡単にいえば、聞こえにくい側の死角を減らすための仕組みです。
良い側にも聴力低下がある場合はBiCROS(バイクロス)
良い側の聴力が正常で、悪い側から入った音を良い側へ送る仕組みがCROSです。
一方、良い側にも補聴が必要な聴力低下がある場合には、BiCROS(バイクロス)という方法があります。
悪い側のCROSマイクから送られてきた音を受けながら、良い側についても補聴器で必要な音を補います。
CROSとBiCROSは似ていますが、良い側にも補聴が必要かどうかが大きな違いです。
CROS(クロス)にも限界があります
CROSを使用しても、両耳でバランスよく聞いている状態になるわけではありません。
悪い側から入ってきた音を良い側へ届けていますが、最終的には良い側の片耳で聞き取っています。
人間は左右の耳に入ってくる音の違いを利用しながら、周囲の騒音と聞きたい声を聞き分けたり、音がどちらから来たのかを判断したりしています。
CROSは悪い側からの音を届けることはできますが、この両耳で聞く機能そのものを改善するものではありません。
片側からの聞こえが、本来の両耳からの聞こえに勝ることはありません。
騒音下では「声と雑音がどちら側にあるか」も重要です
CROSは、騒がしい場所では一律に効果がなくなるわけではありません。
たとえば、聞きたい人が悪い側にいる場合。
そのままでは頭によって音が遮られ、反対側の良い耳へ声が届きにくくなります。
CROSを使用すれば、その声を悪い側のマイクで拾って良い側へ届けることができます。
反対に、良い側に聞きたい人がいて、悪い側に大きな雑音がある場合。
CROSマイクは悪い側の雑音も拾って良い側へ送ります。そのため、かえって聞き取りづらくなることがあります。
CROS/BiCROSについて調べた研究でも、このように話者と雑音の位置関係によって聞き取りへの効果が変わることが報告されています。
話している人がどちら側にいるのか。
雑音がどちら側から入ってくるのか。
同じ騒音下でも、この位置関係によってCROSの効果は変わります。
CROS(クロス)を使用されている方の感想
比較的静かな場所では、
「今まで聞こえなかった側から話しかけられても分かるようになった」
という感想があります。
右ハンドルの車を運転される方で左側が悪い場合なども、左側に座っている方との会話で聞き取りやすくなったという声があります。
一方、
「聞こえるには聞こえるが、どちらから話しかけられたのか分かりづらい」
という感想もあります。
CROSによって悪い側から入ってくる声を聞きやすくすることはできますが、音の方向を判断する能力については改善しにくいことが研究でも報告されています。
また、何かを手に持って使用する必要がなく、補聴器とCROSマイクを耳につけた状態で使えることは日常生活での利点です。
反対に、
「良い側にまで補聴器をつけたくない」
という方には不向きです。
店内で聞こえたからといって、実生活でも同じとは限りません
CROSは店内の静かな場所で悪い側から声をかけ、
「聞こえました」
という確認だけでは十分ではありません。
車の中、職場、家族との食事、外出先など、実際に困っている場所で使ってみることが大切です。
特に騒音下では、先ほど説明したように話者と雑音の位置関係によって聞き取りやすさが変わります。
当店でも貸し出し期間を設け、普段困っている環境で確認していただいています。
CROS(クロス)だけでは難しい場面ではワイヤレスマイクも有効です
周囲が騒がしい場所、話者と離れている場所、複数の人が話す食事や会議などでは、CROSだけでは聞き取りに限界があります。
このような場面では、補聴器とワイヤレスマイクを組み合わせる方法があります。
代表的なものがPhonak(フォナック)の「Roger On 3(ロジャー オン スリー)」です。
補聴器のマイクだけで離れた声を拾うのではなく、マイクそのものを話者の近くに置き、その音声を補聴器へ直接届けます。
聞こえていない時間を長く過ごして不安になるのであれば、必要な場面ではマイクを利用してスムーズに聞こえる方が良いと考えています。
Roger On 3(ロジャー オン スリー)
Roger On 3はペンタイプのワイヤレスマイクです。
内蔵の加速度センサーで使用状態を認識し、Table(テーブル)、Presenter(プレゼンター)、Pointing(ポインティング)の各モードへ自動的に切り替わります。
テーブルに置いた場合には、話している人の方向へ自動的にビームが選択されます。
食事の席や会議など話す人が入れ替わる場面ではテーブルに置く。特定の話者から離れて聞く場合には、その方につけてもらう。聞きたい人の方向へ向けて使用することもできます。
周囲の環境や使い方が変わる場面に対応しやすいことがRoger On 3の特徴です。
またペンタイプですので、食事や会議の際にテーブルへ置いても、それほど違和感なく使用できます。
ReSound(リサウンド)のMulti-Mic+(マルチマイクプラス)という選択肢
ReSoundには「Multi-Mic+」があります。
テーブルの上に水平に置くと自動的にモードが切り替わり、複数の話者の声を拾います。
1対1で使用する場合には、聞きたい相手の衣服などにクリップで装着して使用します。
環境や置き方に合わせて自動的に動作を変える範囲は、Roger On 3の方が広くなっています。
一方、話者が決まっていて、その方の近くにマイクを置ける場面ではMulti-Mic+も有効です。
Roger On 3とMulti-Mic+では価格にも大きな差があります。
使用する場面と必要な機能に合わせて選択します。
ワイヤレスマイクは以前より使いやすくなりました
以前はワイヤレスマイクを使用する際、ご自身で補聴器の切り替えボタンを押していただく必要がありました。
特に高齢の方の場合、この切り替えるタイミングが難しいこともありました。
現在は対応する補聴器との組み合わせによって操作の負担が大きく減っています。
この点は以前と比べて大幅に改善されています。
実際の使用例① 仕事でドライバーをされている60代の方
仕事で車を運転されている60代の方です。
乗車されている方からの問いかけやリクエストへの対応にBiCROSを活用されています。
良い側にも補聴が必要ですが、低音域は比較的聞こえているため、耳を塞ぎすぎないよう穴が複数開いたオープンタイプの補聴器を使用し、悪い側にはCROSマイクを装着しています。
使用時の違和感も特にないとのことです。
右ハンドルの車で左側から話しかけられた際にも、以前より聞き取りやすくなっています。
また、初めて行く場所ではスマートフォンのナビ情報を良い側の補聴器へストリーミングし、道案内を補聴器から直接聞いておられます。
CROSとは別の機能ですが、仕事では非常に便利とのことでした。
実際の使用例② 仕事を続けている80代男性
これまで両側に補聴器を使用されていました。
しかし、言葉の聞き取りを測定すると左右差が大きく、悪い側については、
「音が入ってくるだけでうるさい」
とのことで、普段は補聴器を外している状態でした。
そこで悪い側へさらに補聴器から音を入れる方法ではなく、仕事中に死角となる側へRoger On 3を置き、その音声を良い側の補聴器へ届ける方法をとりました。
使用後は、聞き逃すことへの不安が少なくなったとのことでした。
仕事上の大切な会議でもRoger On 3を使用されており、話者に合わせてマイクの配置を変えながら聞き取っておられます。
補聴器の調整だけでは対応しづらい「距離」や「話者の位置」をワイヤレスマイクで補っている例です。
CROS(クロス)やワイヤレスマイクを多く使う場合は電池消費にも注意
CROSマイクから音声を受信する場合や、Roger On 3、Multi-Mic+などから音声をストリーミングする場合は電池消費も大きくなります。
当店では、こうした使い方を日常的に行う場合には充電式を基本に考えています。
またPhonakなどでは、対応するオーダーメイド耳あな型補聴器でもワイヤレスマイクを利用できる製品があります。
CROSやワイヤレスマイクは、すべての補聴器で使用できるわけではありません。メーカーやシリーズによって対応が異なります。
BiCROS(バイクロス)では、良い側の補聴器にも実耳測定を行います
BiCROSを使用する場合、当店では良い側の補聴器についても必ず実耳測定を行います。
実耳測定とは、細い測定用チューブを耳の中に入れ、補聴器から出た音が実際に鼓膜付近へどのくらい届いているのかを確認する測定です。
悪い側から音を送るからといって、良い側の補聴器から必要以上の出力を出す必要はありません。
実耳測定で実際に耳の中へ届いている音を確認し、必要な音が不足していないか、大きな音が入りすぎていないかを確認します。
最低限必要な出力で、できるだけ効果を引き出すためです。
BiCROSについても、メーカーの技術資料ではプローブマイクを使用した実耳測定による確認方法が示されています。
これはBiCROSだから特別に行うものではありません。
補聴器を扱う専門店として必要なことだと考えています。
まとめ
片側の聞こえが大きく低下している場合、補聴器を使用しても十分な効果が得られないことがあります。
その場合にはCROS(クロス)、良い側にも補聴が必要であればBiCROS(バイクロス)という方法があります。
CROSは悪い側の耳そのものを聞こえるようにするものではなく、悪い側から入ってきた音を良い側へ届ける仕組みです。そのため悪い側からの呼びかけなどに気づきやすくなる一方、本来の両耳での聞こえを再現するものではありません。
また騒音下では、話者と雑音がどちら側にあるかによっても聞き取りやすさが変わります。
CROSだけでは対応しづらい騒音、距離、複数話者などの場面では、Roger On 3(ロジャー オン スリー)やReSound(リサウンド) Multi-Mic+(マルチマイクプラス)などのワイヤレスマイクを組み合わせる方法もあります。
左右の聞こえの状態、言葉の聞き取り、実際に困っている場面を確認しながら、CROS、BiCROS、ワイヤレスマイクを使い分けていきます。
参考文献・メーカー資料
- Snapp HA, Holt FD, Liu X, Rajguru SM.Comparison of Speech-in-Noise and Localization Benefits in Unilateral Hearing Loss Subjects Using Contralateral Routing of Signal Hearing Aids or Bone-Anchored Implants.Otol Neurotol. 2017;38(1):11-18.doi:10.1097/MAO.0000000000001269PMID: 27846038CROSによる騒音下での聞き取りと音源定位について検討した研究。
- Choi JE, Ma SM, Park H, Cho YS, Hong SH, Moon IJ.A comparison between wireless CROS/BiCROS and soft-band BAHA for patients with unilateral hearing loss.PLoS One. 2019;14(2):e0212503.doi:10.1371/journal.pone.0212503話者と雑音の位置関係によるCROS/BiCROSの効果、頭部陰影、音源定位などについて検討した研究。
- Phonak.CROS L Verification Guide.CROSおよびBiCROSの実耳測定による確認方法を解説した技術資料。https://www.phonak.com/content/dam/phonak/en/evidence-library/white-paper/technical-paper/ph-verification-guide-cros-real-ear-measurement-en-027-0643-02-l.pdf閲覧日:2026年9月20日
- Phonak.Roger On 3 / Roger On.Roger On 3のマイクモード、加速度センサー、Table、Presenter、Pointingの各モード、テーブル上でのビーム選択などに関するメーカー資料。https://www.phonak.com/ja-jp/hearing-devices/microphones/roger-on閲覧日:2026年9月20日
- ReSound.Multi-Mic+.Multi-Mic+の話者への装着、テーブル上での使用、自動モード切り替えなどに関するメーカー資料。https://www.resound.com/ja-jp/hearing-aids/accessories/multi-mic閲覧日:2026年9月20日







