90歳以上の方や一人暮らしの方が補聴器を選ぶとき、最初に確かめたいのは性能や価格ではありません。ご本人が自分で装着し、取り外し、充電や手入れまでできるかどうかです。
ご本人だけでの管理が難しいなら、ご家族や介護スタッフがどこまで手伝えるか。その協力体制まで含めて考えることが、失敗しない補聴器選びにつながります。
90歳以上の方の補聴器選びで、最初に確認すること
補聴器メーカーに勤めていた12年間、頭の中は「この補聴器の特徴は? 性能は? 他社との違いは?」でいっぱいでした。営業マンとしては、それが当たり前だと思っていたのです。
考え方が変わったのは、2012年に独立してから。独立当初は、ご高齢の方のご自宅や介護施設へ伺う訪問の仕事が中心でした。
そこで目の当たりにしたのは、性能の差よりもずっと手前にある問題です。補聴器を耳にうまく入れられない。電池を交換できない。外したあと、どこに置いたかわからなくなる。どれだけ高性能な補聴器でも、耳に入っていなければ音はひとつも届きません。
それ以来、補聴器選びで最初に見るポイントが変わりました。「この方は、ご自身で補聴器を扱えるかどうか」。
2016年にこの記事を最初に書いたときも、この言葉を掲げています。10年が経ち、充電式の補聴器が増えるなど補聴器そのものは大きく変わりました。それでも、この順番は今も同じです。
年齢だけで決まるわけではない
「90歳を超えたら、もう補聴器は無理でしょうか?」と聞かれることがあります。答えは、年齢だけでは決まらない、です。
90代でもご自分で毎日きちんと管理されている方がいます。反対に、70代でも指先の動きや耳の形の関係で、装着に苦労される方もいます。見るべきは年齢ではなく、ご本人の操作能力、生活環境、そして周りの支援体制です。
補聴器選びで確認したい5つのポイント
補聴器を選ぶ前に、次の5つを確認します。どれも「お店で一度できた」だけでは不十分。ご自宅で、毎日、ひとりで繰り返しできるかどうかが大切です。
英国の国立医療技術評価機構 NICE(ナイス)のガイドラインでは、聴覚の評価にあたって、認知機能や身体の移動能力、手先の器用さを確認し記録するよう勧めています。さらに補聴器の装用開始から6〜12週間後のフォローアップで、装着・取り外し・手入れの困りごとに対応することも求めています。
※英国の公的ガイドラインであり、日本の制度上の決まりではありません。
1補聴器を自分で正しく装着できるか
装着の難しさは、指先の器用さだけで決まるものではありません。耳の穴の形や大きさ、補聴器本体の大きさ、耳栓の形によっても変わります。
たとえば小さな耳あな型は目立ちにくい反面、つまむ部分が小さく、指先に力が入りにくい方には扱いづらいことがあります。耳かけ型でも、耳栓を耳の穴の正しい位置まで入れられないと、音が漏れてピーピー鳴ったり、聞こえ方が変わったりします。
ご本人がどれだけ小さく目立たない補聴器を希望されても、扱えないとわかっている機種を、そのまま販売することはありません。
2自分で安全に取り外せるか
外すときに耳栓だけが耳の中に残ってしまう。引っぱった拍子に落として、踏んでしまう。取り外しは装着ほど注目されませんが、ここでつまずく方も少なくありません。
外した補聴器を置く場所が決まっているかどうかも、紛失を防ぐ大事なポイントです。
3充電または電池交換ができるか
充電式なら毎日の充電器への出し入れ。電池式なら小さな電池の交換と電池ぶたの開け閉め。どちらが扱いやすいかは人によって違います。詳しくは次の章で説明します。
4汚れや「音が出ていない」状態に気づき、手入れができるか
耳あかで耳栓や音の出口が詰まると、音が小さくなったり、まったく出なくなったりします。ご本人は「耳が悪くなった」と感じていても、実は補聴器側の詰まりが原因だった、というのは珍しくない話です。
異変に気づけるか。耳栓やフィルターを交換できるか。できないなら、誰が代わりに気づくのか。そこまで考えておく必要があります。
5困ったときに、家族や販売店へ相談できるか
補聴器は買って終わりではありません。調子が悪いとき、ご本人が電話で状況を伝えられるか。お店まで来られるか。難しければ、ご家族が代わりに連絡できるか。
トラブルが起きたときの連絡ルートを、購入前に決めておくと安心です。
操作が難しいのは、ご本人だけの問題とは限りません。オーストラリアの研究では、55歳以上で補聴器を使ったことのない89人を対象に、通常の取扱説明書と、文字を大きくし、図を増やし、専門用語を減らした説明書を比べています。その結果、改良版を使ったグループでは複数の操作課題で成績が改善しました。
ご本人の能力だけを見るのではなく、伝え方を工夫する。それも販売店の大切な役目だと考えています。
高齢者には充電式と電池式、どちらが扱いやすい?
2016年の記事から、いちばん大きく変わったのがここです。当時は電池式が当たり前でしたが、今は充電式を選ぶ方が増えました。ただ、充電式がすべての高齢者に向いているわけではありません。
充電式
メリット
- 小さな電池を交換しなくていい
- 充電器に置く習慣ができれば管理しやすい
- 電池ぶたの細かい操作が減る
注意点
- 毎日、正しく充電器に収める必要がある
- 充電忘れや、うまく充電されていないことがある
- 機種によっては充電器への出し入れに指先の操作が要る
電池式
メリット
- 毎日充電しなくていい
- 電池を替えればすぐに使える
注意点
- 小さな電池の交換が難しい場合がある
- 電池の向きや電池ぶたの操作に注意が要る
電池交換は難しくても、充電器への収納ならご自身でできる方がいます。反対に、充電器への出し入れが難しく、電池式のほうが管理しやすいケースもあります。
カタログを見比べても答えは出ません。実物を手に取り、ご本人に実際に操作してもらってから決める。それがいちばん確実です。
一人暮らし・施設入所中の方は、家族やスタッフの協力も重要
ご本人だけで管理するのが難しいとわかった場合、ご家族に必ず確認していることがあります。
- ご家族はどのくらいの頻度で訪問できるか
- ご本人は毎朝、自分で装着できるか
- 充電忘れや補聴器の紛失に、誰が気づくか
- ヘルパーさんや介護スタッフは、補聴器の管理を手伝えるか
- 不具合が起きたとき、誰が販売店へ連絡するか
ご家族が週に1回訪問できても、ご本人が毎朝補聴器を着けられなければ、残りの6日は補聴器なしで過ごすことになります。その場合は、ヘルパーさんの訪問に合わせるなど、別の支援方法を考える必要があります。
施設に入っていれば安心、とは限らない
施設に入所されている方の場合、「スタッフさんが見てくれるから大丈夫」と考えがちです。ただ、すべての施設が補聴器の着脱や管理まで対応できるわけではありません。スタッフの人数や忙しさによっては、どうしても手が回らないこともある。施設に伺う機会が多かった頃から、正直に感じてきたことです。
介護施設のスタッフ23人への聞き取り調査では、補聴器などの機器を管理する技術の不足、使うこと自体を忘れてしまうこと、補聴器の管理が日々のケア業務の一覧に入っていないこと、機器がすぐ使える場所にないことなどが、支援の壁として挙げられました。一方で、スタッフの「支えたい」という気持ちは強かったと報告されています。
※少人数への聞き取り調査であり、すべての施設に当てはまるものではありません。
気持ちはあっても、仕組みがなければ続かない。入所前や補聴器の購入前に、どこまで協力してもらえるかを施設に具体的に確認しておくことをお勧めします。
英国の聴覚支援団体 RNID(アールエヌアイディー)は介護施設向けに、補聴器の使用状況をケアプランに記録すること、操作や手入れの方法をスタッフ間で共有すること、正しく装着され動いているかを定期的に確認することを案内しています。
日本の施設に同じ対応が求められているわけではありませんが、ご家族から施設へお願いするときの目安になります。補聴器の置き場所や充電器の場所、着け方の手順をメモにして渡しておくだけでも、スタッフさんの負担はずいぶん変わるはずです。
操作性を確認したら、次に補聴器の性能を考える
装着や管理のめどが立って、ようやく性能の話に進みます。判断材料は次のとおりです。
- 聴力と、言葉の聞き取りの力(語音明瞭度)
- ふだん会話する相手の人数
- 自宅で過ごすことが中心か、外出や集まりが多いか
- 騒がしい場所での聞き取りが必要か
- 自動調整にどこまで任せたいか
- 本体の操作をできるだけ減らせるか
- 必要な音量と音質を確保できるか
静かな自宅での会話が中心なら、エントリーモデルで十分な場合もあります。一方、家族の集まりやデイサービスなど、にぎやかな場所での会話が必要な方は、騒がしい場面に対応した機能も検討します。
価格が高いから操作が簡単、とは限りません。低価格だから使いにくい、とも限りません。どのクラスを選んでも、聴力に合わせた適切な調整と、実際に聞こえが良くなっているかの確認がなければ、性能は活かせません。
よくある質問
90歳以上でも補聴器は使えますか?
使えます。大切なのは年齢よりも、ご自分で装着や管理ができるかどうか。難しい場合は、手伝ってくれる人がいるかどうかです。
高齢者には充電式と電池式のどちらがよいですか?
一概にはいえません。電池交換が難しい方には充電式が向いていますが、充電器への出し入れが難しい方や充電を忘れがちな方には、電池式のほうが管理しやすいこともあります。実物で操作を試してから決めてください。
一人暮らしで補聴器を管理できない場合はどうすればよいですか?
ご家族の訪問、ヘルパーさん、施設スタッフなど、誰がどの場面を手伝えるかを整理します。そのうえで、扱いやすい形や充電方式を選びます。手伝える人が見つからない段階なら、購入を急がず、まず販売店に相談してください。
まとめ|補聴器は、購入後に使い続けられることが大切
無駄な買い物はない。
性能を軽く見ているわけではありません。まず、毎日使えること。そのうえで、必要な聞こえを実現できる補聴器を選ぶ。この順番を間違えないことです。
- 自分で装着・取り外しができるか
- 充電または電池交換ができるか
- 汚れや不調に気づき、手入れができるか
- 家族やスタッフがどこまで手伝えるか
- そのうえで、生活に合った性能を選ぶ
補聴器は、性能や価格だけでは選べません。ご本人が毎日扱えるか。ご家族や周囲の協力が得られるか。購入後も使い続けられるか。そこまで考えることが、本当の意味での補聴器選びです。
ご本人のことでも、ご家族のことでも、補聴器選びで迷ったらご相談ください。当店は完全予約制です。
ご相談のご予約はこちら参考文献
- NICE. Hearing loss in adults: assessment and management (NG98). 2018年公開・2023年更新.
https://www.nice.org.uk/guidance/ng98/chapter/recommendations - El-Saifi N, et al. Factors Influencing Staff Support for Sensory Device Use for People in Long-Term Care Settings. Journal of Applied Gerontology. 2025年9月オンライン公開.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40970292/ - RNID. Guidance for residential care homes.
https://rnid.org.uk/employers-and-professionals/healthcare-professionals/care-homes/ - Caposecco A, et al. Evaluation of a Modified User Guide for Hearing Aid Management. Ear and Hearing. 2016;37(1):27-37.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26390408/





