うまくいかない原因は、
本当に補聴器だけでしょうか。
これから補聴器を購入する方、買い替えを考えている方へ
補聴器販売に携わっていると、当然ながら「補聴器を使って良かった」という方ばかりに出会うわけではありません。
メーカー勤務時代から数えると、私は25年以上この仕事に携わってきました。その中には、補聴器を上手に使い続けている方もいれば、何度買い替えてもうまくいかない方もいます。
また当店では、他店で購入した補聴器がうまく使えていない方を対象に、2回完結の「再生コース」も行ってきました。そこで改めて感じたことがあります。
補聴器がうまくいかなかった原因を、
「この補聴器が合わなかった」の一言だけで
終わらせている方が少なくありません。
実際には、そんなに単純ではありません。
そして購入から年数が経てば、補聴器そのものの状態も変わります。
今回は、当店にとって都合の良い成功事例だけを書くつもりはありません。実際に対応に苦慮した事例、当店から他店での調整を勧めた事例、医療機関へ引き継いだ事例も含めて紹介します。
誰かを批判するためではありません。
これから補聴器を購入する方、買い替える方に、同じ失敗を繰り返してほしくないからです。
個人が特定されないよう、事例の本質に影響しない部分については一部表現を整理しています。
1「判断するのは自分」――その通りです。でも判断材料まで選別していませんか
ある方から予約をいただきました。予約時に「補聴器を試すことはできますか」と確認されましたので、試聴できることをお伝えしました。
ところが来店当日、再び電話がありました。
本当に試せるんですか?
予約時にすでに説明していますので、正直、何のための確認なのだろうと思いました。
来店後にお話を聞いていくと、
聴力測定は嫌というほど受けてきた
耳鼻科の先生からは、まだ補聴器は必要ないと言われた
どの補聴器を試すかは自分で決める
最終的に判断するのも自分
という考えを強くお持ちでした。ご自身の考えを長時間にわたって説明され、複数の名刺を出して経歴についても話されます。スタッフに対しても同様でした。
実際に測定すると、軽中等度の難聴があり、語音明瞭度は70~75%程度でした。普通の会話はできています。これまで耳鼻科や他の販売店で「まだ必要ない」と言われてきたことも、理解できない話ではありません。
ただ、今回の測定結果と使用環境から、当店では雑音抑制機能も考慮した補聴器を提案しました。すると、
費用を決めるのは自分です。もっと安い補聴器を試したい
と言われました。
もちろん、いくらの補聴器を購入するかを決めるのはご本人です。
しかし、購入価格を決めることと、その方の使用目的に合わないと私たちが判断した補聴器まで販売することは、別の話です。
当店ではその条件では提案できないことをお伝えし、他店での相談をお勧めしました。
「自分で決める」と「自分に都合の良い話だけを聞く」は違う
補聴器を購入するかどうか。どこで買うのか。いくらまで出すのか。最後に決めるのはご本人です。それは当然です。
しかし、その判断材料を得るために専門家へ相談しているのであれば、自分の考えとは違う説明にも一度は耳を傾ける必要があると思います。
最初から答えが決まっていて、その答えを肯定してくれる販売店を探すのであれば、何軒相談しても同じ話を最初から繰り返すことになります。
海外でも、補聴器を初めて使う人の「期待」については以前から研究されています。
CoxとAlexanderは、初めて補聴器を使う人の装用前の期待には安定性がある一方、一般的な補聴器使用者からみると非現実的に高い期待もみられたと報告しています。[1]
Saundersらの研究では、装用前のカウンセリングには期待を調整する一定の効果が認められています。一方で、非現実的な期待を修正するにしても、本人の意欲まで失わせるほど期待を下げるべきではないとしています。[2]
補聴器に期待しすぎても、逆に最初から「どうせ聞こえない」とあきらめても、うまくいきません。
その人にとって現実的な期待はどこなのか。それを一緒に見つけるために、専門家との対話があります。
そしてもう一つ。「本当に困ったら、そのとき補聴器を使えばいい」――そう考える方もいます。
ただ、数年後にも今と同じ聴力、同じ語音明瞭度、同じ条件からスタートできるとは限りません。
必要性を感じ始めたときに、一度きちんと自分の聞こえを知っておくことには意味があると私は考えています。
24年間うまくいかなかった店で、なぜ次も買うのでしょうか
購入から4年近く経過した補聴器を使用されていた方です。初回来店時、
今回のコースで、どんな聞こえに変わるのか、とても楽しみにしてきました
と言われました。
期待される気持ちは分かります。しかし、はっきり言えば、4年間うまくいかなかった聞こえが、別の販売店で一度調整しただけで劇的に変わる。そんな虫の良い話が必ず存在するわけではありません。
測定すると、語音明瞭度は60%前後。高音が響くという訴えもありました。実耳測定をすると、必要と考える利得にも十分到達していませんでした。
そこで、高音の響きを本人が我慢できる範囲を確認しながら、最低限必要と考えるところまで近づけました。
それでも、何か魔法をかけたような感動が起きるわけではありません。補聴器の調整によって、ご本人の聞き取り能力そのものを作り変えることはできないからです。
そして2回目の来店時にも、
今日はどんなふうに変わるのか楽しみにしてきました
と言われました。そこで改めて説明しました。
実耳測定は前回終了しています。現在の状態と本人が許容できる範囲を考えて、すでに調整しています。今回の確認で再生コースは終了し、今後は必要に応じてご自身でもアプリ等を使いながら音量調整していただくことになります。
ところが、その方からさらに質問されました。
次に買うなら、どこのメーカーの、どの機種がいいですか?
今の担当者には、どう説明すればいいですか?
話を聞いて驚きました。
次も、これまで4年間うまくいかなかった同じ眼鏡店で購入するつもりだったのです。
補聴器は疑うのに、なぜ販売店は疑わないのでしょう
4年間、満足できなかった。だから次は違うメーカーにしよう。もっと良い機種にしよう。そこまでは考える。
ところが、販売店と担当者はそのままです。私はここに大きな疑問を感じました。
補聴器ユーザーの中には、ご自身が使っている補聴器のメーカー名や機種名をあまり覚えていない方も珍しくありません。それ自体は問題ではありません。
問題は、うまくいかなかったときに「この補聴器が悪かった」と考える一方で、その補聴器をどのように合わせてもらったのかを振り返らないことです。
「担当者は丁寧で親切なんです」という話もよく聞きます。もちろん、丁寧で親切であることは大切です。しかし、
接客が丁寧であることと、補聴器が適切に調整されていることは同じではありません。
これは感覚だけの話でもありません。
Sandersらは2015年、同じ聴力を想定して測定した実験で、5社の補聴器について、メーカーのフィッティングソフトでNAL-NL2を選択した状態と、実耳で測定した結果を比較しています。
55dB SPLの入力では、16耳×5製品=80フィッティングのうち59例(74%)で、250~4000Hzの少なくとも1周波数がNAL-NL2の目標から10dB以上外れていました。[3]
つまり、画面上でNAL-NL2を選択したからといって、実際の耳の中でもその通りになっているとは限りません。
またValenteらの研究では、メーカーのファーストフィットと、実耳測定を用いてNAL-NL2の目標へ調整した設定を比較したところ、参加者の79%が後者を好みました。[4]
もちろん、実耳測定をすれば誰でも満足するという話ではありません。
ここで伝えたいのはもっと単純です。
高い補聴器へ買い替えれば、
それまでの問題が自動的に解決するわけではありません。
4年間うまくいかなかったのなら、次の商品を選ぶ前に、なぜ4年間うまくいかなかったのか。そこを一度考えるべきだと思います。
3逆の方もいます――満足しているのに、なぜ毎回店を変えるのでしょうか
メーカー勤務時代、いわゆる老舗と呼ばれる補聴器専門店を担当していたことがあります。
そこには、学生時代から何十年にもわたり、同じ販売店、同じ担当者に補聴器を調整してもらっている方がいました。そのような方ほど、担当者が変わることを非常に嫌がられます。
メーカー側から見ても、その気持ちはよく分かりました。担当者が知っているのは、聴力測定の数字だけではないからです。
どんな音を嫌がるのか
どの程度まで利得を上げられるのか
以前どんな補聴器を使っていたのか
どの機種が合ったのか
どんな生活をしているのか
過去に何を試して、何がダメだったのか
そうした情報が何年、何十年と蓄積されています。新しい補聴器が発売されたときにも、「この機種なら、あの方には合いそうだ」と担当者が想像できる。これは補聴器販売において大きな財産です。
ところが反対に、20年以上補聴器を使っているのに、購入する販売店が毎回違う方もいます。
ある買い替え相談で、これまでいろいろな販売店へ行ったことを、むしろ自慢げに話される方がいました。ところが現在使っている補聴器には、それなりに満足しているというのです。
では、なぜ次もその店へ相談しないのでしょう。
引っ越した
店が閉業した
担当者が退職した
調整や対応に明確な不満があった
それなら理由は分かります。しかし、そうではありませんでした。
話を聞いていると、自分の考えどおりに動いてくれる販売店を、その都度探しているように私には見えました。
販売店を転々としてきた方には、販売する側も最初は身構えます
これは販売する側の本音として書いておきます。
20年間補聴器を使っている。その間、何軒もの販売店で購入している。しかも以前の補聴器には満足している。そのような方が初めて当店へ来られれば、こちらも最初は少し身構えます。
なぜ、これまでのお店ではダメだったのだろう
今回も数年後には別の店へ行くのだろうか
と考えるからです。
これは「店を変えるな」という話ではありません。合わない店なら変えればいい。技術や対応に疑問があるなら、別の専門家の意見を聞くことも必要です。
しかし、満足している販売店まで毎回変えることが、本当に本人にとって有利なのか。私は疑問に思います。
20年間補聴器を使っていても、毎回販売店を変えれば、新しい販売店では毎回1年目から始まります。
補聴器店をたくさん知っていることと、
補聴器を上手に使えていることは同じではありません。
4補聴器専門店は「音を変える人」だけではありません
時々、次のような質問をされることがあります。
補聴器の調整ソフトと機材を買えば、自分でも調整できますか?
画面だけを見れば、補聴器調整は周波数ごとの数字を上げ下げしているだけに見えるかもしれません。しかし、認定補聴器技能者の仕事は、それだけではありません。
必要な利得が入っているか
大きな音が過大になっていないか
耳を傷めるような出力になっていないか
耳の状態や形状に問題はないか
本人が実際に操作できるのか
スマートフォンとのペアリング、アプリ、テレビ、外部マイクとの連携
そして販売店だけで扱うべきではない問題なら、耳鼻咽喉科へ戻す。
「調整ソフトを操作できること」と、「その人の補聴器を継続して管理できること」は同じではありません。
だからこそ、信頼できる販売店や担当者と長く付き合うことにも意味があります。
5「昔○十万円した補聴器」に、いつまで縛られるのでしょうか
再生コースを始めた当初は、購入からかなり年数が経過した補聴器にも対応したことがあります。「この調整をきっかけに、もう一度補聴器を使ってもらえるのであれば」と考えていたからです。
しかし現在、当店では原則として、購入から5年以上経過した補聴器を再生コースの対象にはしていません。
理由があります。5年前の補聴器が、購入当時と同じ状態であるとは限らないからです。
補聴器は毎日、耳の中やその周辺で使用します。湿気、耳垢、汗などの影響を受けます。耳の形も変わります。イヤモールドや耳あな型補聴器が、購入当時と同じように適合しているとは限りません。さらに年数が経てば、メーカーの修理対応もいずれ終了します。
HearingTrackerでも、メンテナンスを行わなければ、マイクやスピーカーなどの性能が徐々に変化することがあり、本人がその変化に気づかないまま使っているケースがあると説明されています。[5]
同じ記事では、オージオロジストのDawn Heiman氏が、多くのメーカーでは5~6年を過ぎると部品不足から修理できなくなることがあると述べています。外部の修理業者で修理できたとしても、古いフィッティングソフトが現在のパソコンのOSで動かず、再プログラムできなかった事例も紹介されています。[5]
これは米国の事例であり、日本国内の修理対応期間はメーカーや機種によって異なります。
「電源が入る」ことと、
「今後も安心して使い続けられる」ことは別です。
10年前に母親が買った補聴器を、自分用に調整してほしい
10年前に母親が購入した補聴器が手元にあります
最近、自分も聞こえが悪くなってきました
自分の聴力に合わせて調整してもらえませんか
その補聴器はすでに販売終了。メーカー修理も終了していました。他店でも断られたそうです。それでも、「お宅で調整してくれるならお願いしたい」とのことでした。
その補聴器が自分の耳に適しているから使いたいのでしょうか。それとも、手元に無料であるから使いたいのでしょうか。
私には、この二つはまったく違う話に思えます。
中古補聴器について、米国のオージオロジストAmy Sarow氏も、家族や友人が使用していた補聴器はその人の難聴に合わせて設定されたものであり、そのまま別の人に適合するものではないと説明しています。
再使用する場合には、専門家による再調整だけでなく、耳への適合も確認する必要があります。また中古機器では、保証や試用期間がないことにも注意が必要としています。[6]
そして私はもう一つ思います。
ただで手に入れた補聴器を、自分の聞こえの問題と向き合うための道具として、本当に真剣に使うでしょうか。
もちろん、家族から譲られた補聴器をすべて否定しているわけではありません。過去には、次のような相談に対応したことがあります。
仕事を辞めて補聴器を使わなくなったので、息子に譲りたい
その補聴器は購入から5年未満の現行機種で、メーカーサポートも継続していました。技術的には対応可能と判断し、息子さん用に調整しました。
ただ、そのときも私の中には葛藤がありました。
本来、聞こえを支えてもらう立場にある親御さんから補聴器を外して、家族がそれを使うことを販売店として積極的に後押ししていいのだろうか。
親御さんには、本当にもう補聴器が必要ないのか。これは、機械として使用できるかどうかだけでは割り切れない問題です。
中古だからダメ。5年経ったから全部ダメ。そんな単純な話をしているのではありません。
ただ、「昔高かったから」「無料で手元にあるから」――そこから補聴器選びを始めるのは、私は順序が逆だと思っています。
まず考えるべきなのは、
今の自分の耳に何が必要なのかです。
6当店で購入された方にも「できません」とお伝えすることがあります
ここまで他店で購入された方の話を多く書きました。では、当店で購入された方なら、すべてご希望どおりに対応しているのか。
そうではありません。
購入から4年。来店するたびに「今日の聴力に合わせ直してほしい」
当店で購入されてから約4年経過した方がいました。体調等によって聞こえの感じ方が変化しやすく、来店されるたびに聴力測定を希望されます。
今回も我慢している
今日も測って、今の聴力に合わせ直してほしい
購入から1年未満であれば、状態を確認しながら何度も調整しなければならないケースもあります。しかし4年経過しても、購入1年目と同じことを繰り返す。
その都度、販売店が横について聴力測定を行い、その日の状態だけを追いかけ続けることは現実的ではありません。
そこで複数のメモリを設定し、その日の状態に応じてご本人にも音量を調整していただく方法を提案しました。それでも毎回、「測って合わせ直してほしい」となる。
そこで当店から逆に提案したことがあります。
「一度、他店で調整を受けてみてはいかがでしょうか」
今後の参考として、第三者の対応を経験することも一つだと考えたからです。
先ほど、満足している販売店なら簡単に変える必要はないと書きました。
一方で、何年経っても同じ問題を繰り返しているなら、今までと違う方法を経験することにも意味があります。販売店側から、それを提案することもあります。
約7年8か月使用した補聴器。突発性難聴のあとに耳鳴りが出たケース
当店で補聴器を購入されてから、約7年8か月が経過した方です。
この方は半年前に突発性難聴になられ、それ以来、耳鳴りを感じるようになったとのことでした。補聴器を長年使ってきたことで、耳鳴りが大きくなったわけではありません。
受診されている耳鼻咽喉科から、
この補聴器には耳鳴りに関する設定が入っているのか
という問い合わせがありました。
この補聴器にも、耳鳴り治療に使うノイズ機能は搭載されています。
しかし日本では、この機能は耳鼻咽喉科医の診断と指示のもとで使うもので、販売店の判断で触ることはできません。
さらに、その補聴器は翌年中にはメーカー修理対応が終了する予定でした。設定を変更しても、その後故障すれば継続対応できない可能性があります。
そこで資料を添付し、現行機種を使用して耳鳴りへの対応を行うのであれば、受診されている医療機関の管理のもとでお願いしますと引き継ぎました。
自店で販売した補聴器だから、最後まで何でも自店で抱え込む。私は、それだけがアフターフォローだとは考えていません。
他店で一度見てもらう。医療機関へ引き継ぐ。古くなった補聴器なら、その限界を説明する。
「何とかします」と言い続けることだけが親切ではありません。
7再生コースで、とても喜ばれた方もいます
ここまで厳しい事例を書きましたが、再生コースを受けられた方の中には、とても喜んでいただいた方もいます。
今まで出ていたハウリングがなくなった
自分で音質を切り替えられるようになった
同じ補聴器なのに、補聴器の価値が上がったように感じる
そう言っていただいたこともあります。
このような方では、これまでの問題点が比較的明確でした。何が不便なのか。何が嫌なのか。何ができていないのか。確認すると改善できる部分があり、そこへ手を入れることができた。
ただし、「何でも聞こえるようになった」という話ではありません。現在のご自身の聞き取り能力の範囲内で、少しでも使いやすい状態へ近づけた。実際には、こういう改善の方が多いと思います。
「効果がありません。調整してください」だけでは
一方で、「補聴器の効果がありません。調整してください」と、漠然とした状態で来られる方もいます。
一度、二度調整すれば、それまで何年間もうまくいかなかった聞こえをすべて解決してもらえると思っている。中には、それまで経験してきたつらさや不満まで、その補聴器を初めて見る当店へぶつけられる方もいます。
しかし、その不満足な時間を当店が作ったわけではありません。
これまでどのような補聴器を提案され、どのような調整を受け、どのような説明やフォローを受けてきたのか。まずそこを振り返る必要があります。
古い米国の調査ではありますが、MarkeTrak VIIIでは、補聴器で平均以上の成功を得ていた人の76%が1~2回の来店でフィッティングを終えていたのに対し、平均以下の群では40%でした。
反対に、4~6回の来店を要した人は平均以下の群では47%、平均以上の群では7%でした。[7]
さらに別のMarkeTrak VIIIの分析では、verification(客観的な検証)とvalidation(効果確認)の両方を行った場合、平均で1.2回来店回数が少なかったと報告されています。[8]
もちろん2008~2009年に補聴器を装用した米国ユーザーを対象にした古い調査です。現在の日本の補聴器販売へ数字をそのまま当てはめることはできません。
何度も調整に通っていること自体が、
良いフィッティングの証明になるわけではない。
これは今でも考える価値のある指摘だと思います。
再生コースは、補聴器を魔法のように蘇らせるサービスではありません
私が再生コースを始めた目的は、他店で購入した補聴器を魔法のように聞こえる補聴器へ変えることではありませんでした。
第三者として、現在の補聴器を見る
実耳測定などを用いて状態を確認する
改善できるところは改善する
できないことは、できないと伝える
次の買い替えで同じ失敗をしないために、これまでとは別の専門家による調整を、身をもって一度経験してもらう
最後の一つこそが、再生コースを作った目的でした。
8安い補聴器を売らないことがあります
当店では、ご希望された価格帯の補聴器を販売しないことがあります。高い補聴器を売りたいからではありません。
その方が補聴器を購入する主な目的に、その補聴器が合致しないと判断した場合です。
たとえば、「片耳装用で会議の内容をできるだけ聞き取りたい」という方。あるいは、スーパーなど騒音のある環境で仕事をしている方。
接客中に「今はこの音質」「次はこのプログラム」と頻繁に補聴器を操作することは現実的ではありません。
そのような方に、雑音下での使用目的に対して十分とは考えにくい補聴器を、「安いから」という理由だけで提案することはありません。
もちろん、予算を無視するという意味ではありません。順序の話です。
何のために補聴器を使うのかを考える
その目的に必要な機能を考える
予算の中でどこまで実現できるかを相談する
私は、この順序が大切だと思っています。
9補聴器の値段を「買った日の金額」だけで考えない
「この補聴器は○十万円した」という話をよく聞きます。その気持ちは分かります。決して安い買い物ではありません。だから5年、10年経過しても、「高かったから、まだ何とか使いたい」と思われるのでしょう。
しかし補聴器は、年数が経っても価値が落ちにくい貴金属とは違います。購入価格が高かったことと、現在その補聴器が自分の生活に役立っていることは別です。
30万円で購入したけれど、聞きにくくてほとんど使わなかった補聴器。
それより高かったけれど、毎日装用し、仕事で使い、家族との会話に使い、外出にも使い、それを何年間も続けられた補聴器。
本当に高かったのは、どちらでしょうか。
私は補聴器の価値を考えるとき、購入時の金額だけを見るべきではないと思っています。感覚的には、次のように考えています。
購入価格 ÷ 所有年数
購入価格 ÷ 実際に役立てて使えた日数
毎日役立っているのか
仕事で使えているのか
家族との会話に使えているのか
以前より行動できるようになったのか
使えてこそ、補聴器には価値があります。
最後に――次の補聴器を探す前に考えてほしいこと
補聴器がうまくいかなかったとき、
このメーカーはダメだった
次はもっと高い機種にしよう
別の補聴器なら何とかしてくれるだろう
と考える前に、一度だけ振り返ってみてください。
本当に問題だったのは補聴器だったのか
機種選択だったのか
調整だったのか
販売店との付き合い方だったのか
自分が補聴器に求めていたことと、現在の聞き取り能力との間に差があったのか
そこを整理しないまま次の補聴器を購入すれば、また同じ失敗を繰り返すかもしれません。
販売店側にも、できることと、できないことがあります。だから当店でも、
売らないことがあります
古い補聴器の再調整をお断りすることがあります
他店での調整を勧めることがあります
医療機関へ引き継ぐこともあります
お客様の希望をすべてそのまま受け入れることだけが、専門店の仕事だとは考えていません。
補聴器の目的は、買うことではありません。高い補聴器を所有することでもありません。古い補聴器を何年使い続けたかでもありません。
毎日の生活の中で、役立てて使うことです。
これから初めて補聴器を購入する方にも、買い替えを考えている方にも、他店で購入した補聴器がうまくいかず悩んでいる方にも。
今回紹介した事例を、単なる誰かの失敗談としてではなく、
「自分は同じことを繰り返していないだろうか」
と考える材料にしていただければと思います。
参考文献・参考資料
[1] Cox RM, Alexander GC. Expectations About Hearing Aids and Their Relationship to Fitting Outcome. Journal of the American Academy of Audiology. 2000;11(7):368-382.
[2] Saunders GH, Lewis MS, Forsline A. Expectations, Prefitting Counseling, and Hearing Aid Outcome. Journal of the American Academy of Audiology. 2009;20(5):320-334. doi:10.3766/jaaa.20.5.6.
[3] Sanders J, Stoody TM, Weber JE, Mueller HG. Manufacturers’ NAL-NL2 Fittings Fail Real-ear Verification. Hearing Review. 2015.
[4] Valente M, Oeding K, Brockmeyer A, Smith S, Kallogjeri D. Differences in Word and Phoneme Recognition in Quiet, Sentence Recognition in Noise, and Subjective Outcomes between Manufacturer First-Fit and Hearing Aids Programmed to NAL-NL2 Using Real-Ear Measures. Journal of the American Academy of Audiology. 2018;29(8):706-721. doi:10.3766/jaaa.17005.
[5] Bailey A. When to Upgrade: How Often Should I Replace My Hearing Aids? HearingTracker. Updated September 5, 2024.(記事内にDawn Heiman, AuDの旧機種修理に関するコメントを掲載)
[6] Sarow A. All About Used Hearing Aids. Soundly. 2023.
[7] Kochkin S, Beck DL, Christensen LA, et al. MarkeTrak VIII: The Impact of the Hearing Healthcare Professional on Hearing Aid User Success. Hearing Review. 2010;17(4):12-34.
[8] Kochkin S. MarkeTrak VIII: Reducing Patient Visits Through Verification and Validation. Hearing Review. 2011;18(6):10-12.




