
補聴器専門店には、特定のメーカーを中心に取り扱う店舗もあれば、複数のメーカーを取り扱っている店舗もあります。では、複数メーカーを取り扱っていることには、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。単純に「たくさんの補聴器から選べる」というだけではありません。補聴器は、価格や性能だけで決まる商品ではありません。聴力、言葉の聞き取り、これまでの補聴器経験、音の好み、耳の形、生活環境、スマートフォンとの接続など、さまざまな条件によって適するものが変わります。今回は、当店で実際にあった事例をもとに、複数メーカーを比較できる補聴器専門店のメリットについてご紹介します。
事例1 「両耳60万円は難しい」から始まった補聴器選び
長年、集音器・簡易型補聴器を使用されていた方が来店されました。
いよいよ本格的な補聴器を検討しようと耳鼻科を受診し、紹介された店舗で相談したところ、提案された補聴器は両耳で約60万円。価格面から「両耳は難しい」と感じられたそうです。
さらに試聴してみると頭が痛くなる感じがあり、ご本人としては、
「片耳だけで十分です」
というご希望でした。
どちらの耳に補聴器をつけるのか?
ここで重要だったのが、これまで集音器を装用していた耳を、そのまま補聴器をつける耳にするとは限らないことです。
そこで当店では、言葉の聞き取りを確認するため、「語音明瞭度」の測定を行いました。語音明瞭度とは、音が聞こえるかどうかだけではなく、聞こえてきた言葉をどの程度正しく聞き分けられるかを見るものです。

結果は、以下の通りでした。
つまり、これまで何もつけていなかった反対側の耳の方が、言葉を聞き分ける力が残っていたのです。
そこで、
「片耳だけに補聴器をつけるのであれば、これまでとは反対側につけてみませんか?」
とご提案しました。
高額な補聴器だけが選択肢ではない
もう一つ大きかったのが予算です。他店では片耳約30万円の補聴器を提案されていましたが、ご本人にとっては負担が大きい金額でした。
一方で、この方は約5年間、集音器・簡易型補聴器を使用されています。そのため、初めて補聴器を使用する方と比べると、周囲からさまざまな音が入ってくる状態には、かなり慣れていました。
そこで当店では、価格を抑えながらも、集音器からは性能を一段上げられる一世代前のオーダーメイド補聴器をご提案しました。実際に試していただくと、ほとんど違和感なく使用でき、購入に至りました。
将来的な両耳装用も考える
今回は予算を考慮して片耳から始めましたが、将来的には両耳装用も検討できます。そこで、大切な場面では、新しく購入した補聴器を一方の耳に、これまで使用していた簡易型補聴器をもう一方の耳に装用していただく方法もお伝えしました。
もちろん、左右で異なる機器を使うことが、理想的な両耳装用という意味ではありません。しかし、予算の問題からいきなり両耳分を購入することが難しい場合でも、今ある機器を利用しながら「両耳から音が入る状態」を経験してもらうことはできます。そして将来、もう一方も補聴器へ移行するという考え方もできます。

事例1の流れ:聞き取りの力の確認 → 複数メーカーの比較試聴 → 無理のない段階的な導入
この事例では、「どの商品を買うか」の前に、「どちらの耳につけるのか」を調べたことが重要でした。
耳鼻科からお持ちいただいた聴力検査データには、語音明瞭度の測定結果がありませんでした。純音聴力、つまり「どのくらい小さな音まで聞こえるか」だけでなく、言葉をどの程度聞き分けられるのかを確認することで、補聴器選びそのものが変わる場合があります。補聴器選びでは語音明瞭度の確認も重要です。
そして複数メーカーを扱っていれば、その結果と予算に合わせて、選択する商品を組み直すことができます。
事例2 5年間使った補聴器より良いものはあるのか?
次は、40代未満の比較的若い方の事例です。先天性の難聴があり、仕事で困る場面が増えたことから、約5年前にオーダーメイドのCICタイプの補聴器を購入されていました。
CICとは、耳の穴の中に収まりやすい、非常に小さな耳あな型補聴器です。目立ちにくいタイプで、装用感にも大きな不満はありません。
今回、買い替えを考えられた理由も、
「今の補聴器が壊れてからでは困る。今使っているものが動いている間に、新しい補聴器を購入して、今のものを予備に回したい」
というものでした。毎日の仕事で補聴器が必要な方にとっては、非常に現実的な考え方です。
まずは現在使っているメーカーを基準にする
最初の補聴器を購入した際には、購入店で取り扱っていたメーカーの中から比較試聴し、一番違和感の少なかったOticonを選ばれたそうです。実際に、その補聴器を5年間使用できています。
ですから今回も、まずは現在使用しているメーカーを一つの基準として考えました。今まで問題なく使えている補聴器があるなら、それを無視して、まったく違うものを勧める必要はありません。
インターネットで調べた「使ってみたい補聴器」
一方、ご本人でもかなり補聴器について調べられていました。そこで興味を持たれていたのが、Bluetoothに対応し、耳型を採って作る専用耳栓も使用できるタイプの補聴器でした。
「一度これを試してみたい」
というご希望があったため、実際に試聴していただきました。ところが、約5年間オーダーメイド補聴器を使ってきたご本人の感想は、
「音が軽く感じる。今の補聴器の方が聞き取りやすい」
というものでした。カタログやインターネットで調べた条件では魅力的でも、実際につけて聞いてみると印象が違う。
補聴器では珍しいことではありません。
今まで使ったことのないメーカーも試してみる

そこで、現在使用しているメーカーを基本線にしながら、さらに別のメーカーも比較しました。ご本人から、
「今まで聞いたことのないSigniaも試してみたい」
という希望があり、実際に試聴していただきました。装用した瞬間、表情が変わったのが印象的でした。違和感が少なく、言葉も聞き取りやすい。
これまで5年間使用してきたメーカーを基準にしながら、新しいメーカーを比較したことで、別の選択肢が見つかったわけです。ご本人からも、
「聞いてみてよかった」
という言葉がありました。
補聴器はカタログだけでは決められない
この2つの事例には共通点があります。一つ目の事例では、「高額な補聴器を両耳に買うのは難しい」というところからスタートしました。しかし、語音明瞭度を確認し、装用する耳を検討し直し、これまでの集音器経験も考慮することで、予算内で現実的な選択肢を作ることができました。
二つ目の事例では、「今まで使ってきたメーカーが一番安全だろう」という選択肢がありました。しかし、本人が興味を持っていた機種、現在使用しているメーカー、さらに今まで使用したことのないメーカーまで実際に聞き比べたことで、新しい候補が見つかりました。
これが、複数メーカーを取り扱う大きなメリットだと考えています。最初から「このメーカーの中から選んでください」と決める必要がないからです。
メーカーによって「音」は同じではありません
現在の補聴器は、どのメーカーも高性能になっています。しかし、だからといって聞こえ方がすべて同じというわけではありません。音声の処理方法、雑音への対応、音の立ち上がり、周囲の音の残し方、自分の声の感じ方などには、メーカーごとの違いがあります。
そして重要なのは、
特に、すでに補聴器を長年使用している方の場合、それまで慣れてきた音があります。理屈では新しい機種の方が高性能でも、実際につけると以前の補聴器の方が聞きやすいこともあります。
反対に、別メーカーを試してみた瞬間に、「こちらの方が楽」と感じる場合もあります。これはカタログの性能表だけでは分かりません。実際につけて、聞いて、比較する必要があります。
複数メーカー取扱店なら、何でも対応できるわけではありません
もう一つ、実際にあった相談をご紹介します。お母様が以前使用していた補聴器を、「自分用に調整して使えないか」という息子様からのお問い合わせでした。
購入した店舗へ持ち込んだところ、そのメーカーの取り扱いがすでに終了しており、修理対応もできないと言われたそうです。当店では複数メーカーを取り扱っていますが、それでも今回はお断りしました。理由は、その補聴器の修理部品などの供給が終了していたためです。
補聴器は電気製品です。調整のために触ったことをきっかけに音が止まったり、乾燥やクリーニング後に不具合が出たりする可能性を、完全には否定できません。特にRICタイプでは、レシーバーや耳栓など、本体以外の部品も必要になります。調整だけできたとしても、その後故障したときに修理できないのであれば、かえって大切な補聴器を使用できなくしてしまう可能性があります。

そのため、「複数メーカーを扱っている=どんな古い補聴器でも調整・修理できる」ではありません。メーカーによる修理対応や部品供給が継続していることも、重要な条件になります。
複数メーカーを取り扱う補聴器専門店のメリット
複数メーカーを取り扱うメリットをまとめると、以下のような点になります。

予算に合わせた比較の詳細は、補聴器の価格と性能の違いはこちらで解説しています。
ただし、メーカー数が多ければ、それだけで良い補聴器店というわけではありません。大切なのは、なぜその補聴器を提案するのかを説明できること。そして、実際に比較して確認できることです。
一方で、正直に言うと、複数メーカーを扱うことは店舗側にとって楽な選択ではありません。
メーカーごとにアフターケア用のパーツが異なるため、在庫として抱える部品の点数は単純に増えます。修理窓口や仕様、納期もメーカーごとに違います。1メーカーに絞っている店舗に比べると、管理の手間とコストは確実に上がります。つまり「メーカーを増やす」ということは、その分のリスクを店舗側が引き受けて、初めて成り立つ話です。
メーカーが違っても共通して使える消耗品もある
ただ、パーツ全体が増える一方で、耳栓(ドーム)や耳垢ガードのような消耗品については、少し事情が違います。補聴器本体の設計はメーカーごとにまったく異なりますが、耳垢ガードや耳栓のノズル径は、メーカー間で近い規格になっているケースが実際にあります。
海外の補聴器パーツ専門店のカタログでも、耳垢ガードやフィルター類は本体と違い、メーカーをまたいで共通して使えるものがあると案内されています。つまり、日常的に使う消耗品には、メーカーの垣根を越えて対応できる場面もあるのです。

アメリカの補聴器メーカーで聞いた、今でも印象に残っている話
これは私自身、独立前にアメリカの補聴器メーカーの工場見学に行った際、現地の担当者から直接聞いて、正直かなり衝撃を受けた話でもあります。
メーカーとしては当然、純正部品の使用を推奨します。それは、公式の立場として当たり前のことです。
ところが現場の担当者からは、耳垢対策など一部の場面では、自社の純正パーツより他メーカーのパーツの方が相性が良いケースもあり、可能であれば変更も検討する、という趣旨の話を聞かされました。

メーカー側の人間が、公式見解とは別に、そういう現場レベルの判断について話してくれたことに驚きました。
そして独立して店を持った今も、この考え方はずっと役立っています。「純正だから」という理由だけで考えるのではなく、メーカーの仕様や安全性を確認したうえで、「その人にとって何が合うか」を考える。この姿勢は、このときの経験がベースになっています。
海外でも「複数メーカーを扱う意味」は議論されている
こうした考え方は、日本国内だけのものではありません。

イギリスの独立系補聴器クリニックの解説では、メーカーや系列によって取り扱う製品が限定される店舗がある一方、独立系クリニックは複数メーカーを扱えることで、患者ごとに適した提案がしやすいとされています。
そして結局のところ、補聴器そのものだけではなく、聴力評価の精度や調整の技術、継続的なフォローアップの質が結果を左右する、という指摘がされています。
業界専門誌「Hearing Review」に掲載された現場専門家の声でも、現在の主要メーカーはどこも良い製品を作っているものの、メーカーごとの設計思想が異なる以上、1ブランドだけですべての聴力タイプや予算に対応するのは難しい、という趣旨の指摘があります。
これは、今回ご紹介した事例1・事例2とも重なる考え方です。
ただし「メーカー数が多ければ多いほど良い」わけでもない
もっとも、賛成の声ばかりではありません。
複数メーカーを扱うほど、1メーカーあたりの習熟度が薄まるのでは、という見方もあります。実際、1〜2メーカーに絞って深く習熟する店舗にも、一定の合理性があります。
メーカー数が多ければ多いほど良いわけではない。この点は、むしろ当店の考え方とも一致します。
大切なのは数そのものではなく、扱うメーカーについてきちんと比較検討し、その補聴器を提案する理由を説明できるかどうかです。
当店では複数メーカーの補聴器を取り扱い、比較試聴を行ったうえで、購入後には実耳測定(REM)を用いて、補聴器から実際に耳へ入っている音を確認しています。実耳測定(REM)を使った補聴器調整についても、あわせてご紹介しています。

「どのメーカーが一番いいですか?」
という質問をいただくことがあります。しかし、本当に知りたいのはメーカーの順位ではなく、
「自分にはどれが合うのか」
ではないでしょうか。その答えを最初から一つのメーカーに決めず、実際に聞き比べながら探せること。
それが、複数メーカーを取り扱う補聴器専門店の一番大きなメリットだと考えています。
補聴器専門店そのものの選び方については、大阪で補聴器専門店を選ぶ際のポイントでも詳しく紹介しています。
- 耳垢ガード・フィルター類について:Connevans(英国・補聴器パーツ専門店)「Wax Guards & Wax Filters for Hearing Aids – all manufacturers」
connevans.co.uk - 独立系クリニックが複数メーカーを扱う意味について:Pindrop Hearing(英国)「Independent Audiologist vs High Street Hearing Chains」
pindrophearing.co.uk - 複数メーカーを扱う臨床側の考え方について:Hearing Review「Staff Standpoint: The Distribution Solution」
hearingreview.com




