耳あな型補聴器を作るとき、「できるだけ小さく、目立たなくしたい」というご希望は少なくありません。
そのため機種によっては、アンテナを含むワイヤレス機能を外し、小型化を優先することがあります。「スマートフォンを使わないから、ワイヤレスはいらない」という判断もあるでしょう。
もちろん、それも一つの選択です。ただし、補聴器は一度購入すると数年間使用します。今は使わない機能が、3年後、5年後の聞こえを助けることもあります。
今回は、片方の補聴器を紛失されたことをきっかけに、3〜4年前にワイヤレス対応の耳あな型補聴器を選んでいて良かったと感じた事例をご紹介します。
片方を紛失。「同じ補聴器を1台追加」でいいのか?
今回使用されていたのは、オーティコン Own 4(オウン4)の耳あな型オーダーメイド補聴器です。
両耳で使用されていましたが、そのうち片方をなくされた、というご相談です。
このような場合、大きく二つの選択肢があります。
選択肢 1
残っている補聴器と同じ機種を1台追加する方法
選択肢 2
これを機会に両耳とも新しい補聴器へ買い替える方法
費用だけを考えれば、同じ補聴器を1台追加する方が負担は少なくなります。
ただし、購入から数年経っている場合、
「なくした1台を元に戻せばいい」
とは限りません。
まず確認しなければならないのは、補聴器ではなく現在の耳の状態です。
3〜4年前より聴力と語音明瞭度が低下
改めて聴力と言葉の聞き取り能力を確認すると、Own 4を購入した3〜4年前とは変わっています。
聴力が低下しているだけでなく、語音明瞭度(言葉を聞き分ける力)まで下がっていたのです。
補聴器は、聞こえにくくなった音を聞こえる大きさまで補うことはできます。
しかし、言葉を聞き分ける能力そのものを、補聴器が3〜4年前の状態へ戻してくれるわけではありません。
そのため今回、最初に考えたのは両耳とも新しい補聴器へ買い替える方法です。
予算を考え、今回はOwn 4を片耳追加
ご本人、ご家族と相談したところ、出てきたのは「予算面も考慮したい」というご希望です。
そこで今回は、残っているOwn 4を活かし、同じ機種を1台追加することにしました。
Own 4はすでに現行カタログから外れた機種。当初は、追加製作が難しいのではないかと考えていたほどです。
メーカーへ確認したところ、カタログ掲載は終了しているものの、まだ製作可能とのこと。これで、同じOwn 4を追加して再び両耳装用に戻せます。
ただ、ご家族には、
「また両耳になれば、以前のように聞こえるようになるのでは?」
という期待もあったようです。
先ほどの通り、現在は語音明瞭度も変化しています。
特に騒音のある場所では、補聴器の音量を上げれば解決するとは限りません。聞きたい声だけでなく周囲の音も一緒に入ってくるため、
「音は聞こえる。でも何を言っているのか分かりにくい」
という状態になることがあります。
そこでOwn 4+EduMicという選択
今回ご提案したのが、オーティコンのワイヤレスリモートマイク「EduMic(エデュマイク)」です。
EduMicは話し手の近くに装着し、その声をワイヤレスで補聴器へ届けます。
つまり、補聴器の音量をさらに上げて対応するのではなく、
聞きたい声の近くで音を拾い、補聴器へ直接届ける
という考え方です。
海外の研究では
リモートマイクによって、距離のある場所や騒音下での言葉の聞き取りが改善することは海外研究でも報告されています。
当店でもこれまで、補聴器単独では聞き取りに限界がある方にワイヤレスマイクを組み合わせた事例をご紹介しています。
EduMicを選んだもう一つの理由は「操作のしやすさ」
高齢の方に周辺機器をご提案するとき、性能と同じくらい重要なのが操作性です。
どれだけ高性能でも、毎回スマートフォンを開いたり、複雑な切り替え操作が必要だったりすれば、次第に使わなくなることがあります。
EduMicは最初に補聴器とペアリングしておけば、その情報が保存されます。
その後は、EduMicの電源を入れると、ペアリング済みの補聴器がEduMic用のプログラムへ自動的に切り替わります。
同じオーティコンのマイク「ConnectClip」との違い
オーティコンには、EduMicのほかに「ConnectClip(コネクトクリップ)」というマイクもあります。どちらも話し手の声を補聴器へ直接届けられる、同じ系列の機器です。
ConnectClip(コネクトクリップ)
電話・マイク・リモコンの1台3役
メーカー希望小売価格 60,610円(税込)
- スマートフォンやパソコンとつなぎ、通話や音声を補聴器で聞ける
- 話し手に着けてもらえば、リモートマイクになる
- 補聴器の音量やプログラムを変えるリモコンにもなる
- マイクとして使うときは、本体のボタンを長押ししてモードを切り替える
EduMic(エデュマイク)
声を届けることに絞ったマイク
メーカー希望小売価格 118,800円(税込)
- 話し手の声を補聴器へ届けることが中心
- 最初に一度ペアリングすれば、あとは電源を入れるだけ
- テレビなどの機器と音声ケーブルでつなぐこともできる
- 磁気ループ(ヒアリングループ)の音声も受けられる
価格だけを見れば、ConnectClipのほうが抑えられます。
それでも今回の目的は、ご家族の声を聞き取りやすくすること。マイクとしての使いやすさを優先して、EduMicを選んでいます。
ご本人だけでなく、ご家族にとっても、
「必要なときに電源を入れて使える」
という分かりやすさは大きなメリットです。
今ある補聴器を活かすための118,800円という選択
EduMicのメーカー希望小売価格は118,800円(税込)です。
決して安い周辺機器ではありません。
ただ今回の場合、現在使用しているOwn 4を活かしながら、補聴器単独では難しくなった聞き取りを補うという目的があります。
すべてを新しい補聴器へ買い替えるだけではなく、
今ある補聴器を活かし、足りなくなった部分を別の方法で補う。
予算も含めて考えれば、こうした選択肢があってもいいと思います。
ご家族が「以前より話しやすくなった」と実感
Own 4を片耳追加し、必要な場面ではEduMicを組み合わせる。今回選んだのはこの方法です。
その結果、ご家族からいただいたのが、
「以前より話がしやすくなった」
という評価です。
聞こえの問題は、補聴器を使っている本人だけの問題ではありません。
- 何度も聞き返される
- 家族が大きな声で話す
- 同じことを繰り返して伝える
- 次第に会話そのものが負担になる
こうした変化は、周囲の家族にも影響します。
だから私は、補聴器の効果を「本人がよく聞こえると言ったか」だけでは判断しません。
家族との会話がどう変わったのか。
これも大切な評価の一つだと考えています。
「小ささ」を優先したことで、あとから後悔することもある
ここからが、今回の事例から考えていただきたいことです。
見た目を優先して、アンテナを含むワイヤレス機能を搭載せず、できるだけ小さな耳あな型を作る。それも間違った選択ではありません。
ただし、購入から数年経って聞こえが変化したとき、
- 家族との会話にワイヤレスマイクを使いたい
- テレビの音を補聴器へ直接届けたい
- 離れた相手の声をもっと聞き取りたい
と思っても、ワイヤレス機能を搭載していなければ対応できない場合があります。
そして、ワイヤレス機能は必要になってから簡単に後付けできるものではありません。
今回の事例では
今回のOwn 4は、3〜4年前にワイヤレス機能を残して製作したものです。
だから現在の聞こえが変化しても、補聴器をすべて買い替える以外に「EduMicを追加する」という選択肢を持てたわけです。
耳あな型を選ぶときには、
数ミリの小ささを優先するのか。
数年後の拡張性を残すのか。
ここまで知ったうえで選ぶことが大切です。
最近は「目立ちにくさ」とワイヤレスを両立する方向へ
これはオーティコンだけの話ではありません。
メーカーを問わず、耳あな型でも小型化だけでなく、接続性や将来の拡張性を重視する流れが出てきています。
たとえば最近のリサウンド・サビーでは、耳あな型のITC・ITEにもワイヤレスモデルが用意され、Auracastにも対応しています。
以前のように、
「目立たなくしたいなら、機能を削る」
だけではなく、目立ちにくさと機能性を両立する選択肢も増えてきました。
また、オーダーメイドの耳あな型は、同じ機種を注文しても全員が同じ大きさになるわけではありません。
耳の大きさや耳道の太さによって、内部に確保できるスペースが違うからです。
特に耳が大きい方や耳道が太い方では、ワイヤレス機能などを保持しながら、外からは比較的目立ちにくく製作できる場合があります。
だから、
「耳あな型だから、とにかく一番小さく」
だけで決めるのではなく、
自分の耳ならどこまで目立たなくできるのか。
そのために何の機能を失うのか。
ここまで確認してから選ぶことをおすすめします。
補聴器は「今使う機能」だけで選ばない
今回、Own 4を購入した3〜4年前の時点で、EduMicを使う予定はなかったのです。
それでもワイヤレス機能を残していたからこそ、聞こえが変化した現在、新しい方法を追加できています。
補聴器は数年間使用するものです。
「今、この機能を使うか」だけではなく、
「数年後にどんな選択肢を残せるか」。
特にオーダーメイドの耳あな型補聴器では、見た目と機能のバランスを考えるうえで、大切な視点だと思います。
よくあるご質問
片方をなくした補聴器と、同じ機種をもう1台作れますか?
メーカーがその機種の販売を中止していなければ、作成できます。今回のOwn 4のように、カタログ掲載が終わっていても製作できる場合があります。
逆に言えば、価格を優先して発売から年数の経った機種を購入すると、将来片方を紛失した際に、すでに製作が終了していて同じ機種を追加できないことがあります。この点は購入時に確認しておきたいところです。
ワイヤレス機能は、あとから追加できますか?
ワイヤレス機能そのものを、完成した補聴器へあとから追加することはできません。
ワイヤレスの有無を選択できる機種では、製作時に決める必要があります。
スマートフォンを持っていなくても、ワイヤレスマイクは使えますか?
使えます。必要なのは補聴器側のワイヤレス機能だけで、スマートフォンは必要ありません。
ただし、スマートフォンがあればアプリでプログラムを切り替えられるので、より便利に使えます。
参考文献
- Chen J, Wang Z, Dong R, et al. Effects of Wireless Remote Microphone on Speech Recognition in Noise for Hearing Aid Users in China. Frontiers in Neuroscience. 2021;15:643205.
- Rodemerk KS, Galster JA. The Benefit of Remote Microphones Using Four Wireless Protocols. Journal of the American Academy of Audiology. 2015;26(8):724-731.
- Boothroyd A. Hearing Aid Accessories for Adults: The Remote FM Microphone. Ear and Hearing. 2004;25(1):22-33.




