AI全盛時代、補聴器の記事は何を信じればいい?見極めたい5つのポイント
補聴器についてインターネットで調べると、本当にたくさんの記事が出てくるようになりました。
メーカーごとの特徴、最新機種の比較、雑音抑制、AI機能、価格の違い。
以前ならメーカーや補聴器販売の現場にいる人でなければ書きにくかったような内容まで、今では詳しく、しかも読みやすくまとめられています。
生成AIの普及も、その一因だと思います。
では、情報が増えたことで、補聴器を選ぶ人にとって本当に分かりやすくなったのでしょうか。
私はむしろ、「何を信じて読めばいいのか」を見極めることが、以前より大切になったと感じています。
まず、2つの文章を読んでみてください。
A補聴器の機能から考えると
最近の補聴器には、周囲の音環境を自動的に分析し、会話と雑音を識別しながら聞こえを調整する機能が搭載されています。
複数の人が話すレストランや会議、交通量の多い屋外などでは、補聴器にとって必要な会話と不要な雑音を区別することが重要になります。
そのため各メーカーでは、指向性マイクや雑音抑制、音声強調などの機能を進化させています。
一般的には上位クラスになるほど、複雑な音環境に対応するための機能が充実する傾向があります。
雑音の多い場所での聞き取りに困っている場合には、こうした機能の違いを比較し、ご自身の生活環境に合った補聴器を選ぶことが大切です。
ここまで読んで、おかしいと思うところはありますか?
おそらく、ほとんどないと思います。
では、もう一つ読んでみてください。
Bところが、実際の相談では
「雑音が気になる」
という訴えのある方がいらっしゃいました。
私も最初は、ある程度しっかりした雑音抑制機能を備えたクラスをご提案する必要があると考えました。
メーカーによって違いはありますが、私が一つの目安として考えたのは、上から3番目程度のクラスです。
ところが、お客様のご予算とは少し開きがありました。
そこで、その一つ下のクラスも実際に聞いていただきました。
すると、
「これでも十分です」
という反応でした。
考えてみれば、その方がそれまで使用されていたのは、現在の補聴器ほど高度な雑音抑制機能を持ったものではありませんでした。
販売する側から見れば、「雑音が気になるなら、これくらいの性能はあった方が安全だろう」と考えます。
もちろん、それ自体が間違いとは思いません。
しかし、販売店側が考える「安全圏」と、その方が実際に満足できるラインは、必ずしも同じではありません。
Aに書かれていることも間違いではありません。
上位クラスほど機能が充実する傾向があることも事実です。
それでも、あなたが実際に補聴器を選ぼうとしているなら、AとB、どちらの続きをもう少し読んでみたいでしょうか。
ここに、これから補聴器の記事を読むうえで大切なことがあると私は思っています。
AIが書いたか、人が書いたか。それだけの話ではありません
生成AIを使えば、メーカーの商品情報や一般的な補聴器の知識を集め、非常に読みやすい文章にまとめることができます。
だからといって、AIで作った記事が悪いわけではありません。
私自身も、情報の整理などにAIを活用しています。
問題は、「AIが書いたか、人間が書いたか」ではありません。
その情報が、実際の補聴器相談やフィッティングの現場を通過しているか。
私は、ここを見ることが大切だと考えています。
海外でも「AIと補聴器情報」の検証が始まっています
これは私だけが感じている問題ではありません。
海外ではすでに、生成AIが難聴や補聴器について、どの程度正確な情報を提供できるのかを検証する研究が行われています。
2025年に『International Journal of Audiology』に発表された研究では、ChatGPT、Bing、Gemini、Perplexityに対して、成人難聴、小児聴覚、補聴器、耳鳴り、人工内耳について、Audiologistが作成した合計100の質問を行い、回答の妥当性や信頼性などを専門家が評価しています。
また2026年には、補聴器ユーザーが尋ねるような44の質問をChatGPTとGeminiに回答させ、3人のAudiologistが評価した研究も発表されました。
この研究では、両者とも回答の分かりやすさについては非常に高く評価されました。
一方、医療・技術的な正確性には質問内容による違いがあり、研究者は専門家による確認が依然として必要だとしています。
米国のAmerican Speech-Language-Hearing Association(ASHA)も、生成AIをAudiologistなどの専門家の代替と考えるのではなく、AIが示す情報や主張について根拠を確認する重要性を示しています。
さらに2026年に発表された、AI搭載補聴器に関するオンライン上の情報を調査した研究でも、誤情報への対応という点から、訓練を受け、誰なのか確認できる専門家がオンライン上に存在することの重要性が指摘されています。
つまり海外でも、「読みやすく、もっともらしく書かれていること」と、
「正確で、実際に使える情報であること」は同じではないという検証が始まっています。
そのうえで、私はもう一つ付け加えたいと思います。
たとえ書かれている内容が正しくても、それだけで十分なのでしょうか。
補聴器は、人の耳に合わせ、実際の生活の中で使うものです。
だから私は、「正しい情報か」に加えて、
「実際の現場を通過した情報か」も見てほしいと思っています。
では、それを一般の方がどう見分ければいいのでしょうか。
難しい専門知識は必要ありません。
記事を読みながら、次の5つを見てみてください。
1.この人、本当に補聴器を触っている?
まず、その記事を誰が書いたのかを見てみてください。
記事の冒頭や最後に著者名があるか。
プロフィールを開けば、資格や経歴だけではなく、普段どのような仕事をしている人なのか分かるか。
そして本文に、
- 「実際の相談では」
- 「私が調整したケースでは」
- 「測定してみると」
といった、その人自身の経験から出てきた話があるか。
ここを確認してみてください。
「認定補聴器技能者監修」「専門家が解説」と書かれていること自体が悪いわけではありません。
ただ、肩書きが書いてあることと、その人自身の経験が記事に反映されていることは別です。
私はプロフィールの立派さだけではなく、「この文章の中に、この人自身がいるか」を見てほしいと思っています。
2.メーカーの説明を、きれいに言い換えただけになっていない?
- 「AIが周囲の環境を分析します」
- 「雑音を抑えて会話を聞き取りやすくします」
- 「耳の形を利用した指向性を実現します」
こうした情報は、製品を知るうえで必要です。
ただし、多くはメーカーの商品情報を調べれば分かります。
現場では、その先があります。
たとえば以前、CICと呼ばれる小型の耳あな型補聴器で、耳の形を利用したバーチャル指向性を備えた製品を作成したことがあります。
カタログ上では魅力的な機能です。
ところが、すべての人でカタログ通りの条件になるわけではありません。
耳道の曲がりが強かったり、聴力に対応するため大きなレシーバーが必要だったりすると、補聴器を想定した位置まで奥に入れられない場合があります。
その結果、マイクの位置も外側になり、本来想定していたバーチャル指向性の効果を十分に利用できないことがあります。
これはスペック表を見ているだけでは分かりません。
機能が搭載されていることと、その人の耳でその機能を生かせることは別です。
私自身、お客様に実際に作成し、使用していただく中で理解を深めてきたことの一つです。
メーカーの説明の次に、「実際に使うとどうだったのか」まで書かれているか。
そこに書き手の経験が出ると思います。
3.うまくいかなかった話も書いてある?
補聴器の記事を読んでいると、
- 「おすすめです」
- 「聞き取りやすくなります」
- 「こんな方に最適です」
という言葉がたくさん出てきます。
でも実際の現場では、こちらが良いと思っていた方法が、お客様の生活ではほとんど使われていなかった、ということもあります。
私自身、以前は環境によって聞こえにくい場面があれば、「そのときはアプリで設定を変えてください」
「補聴器のボタンでメモリーを切り替えてください」と説明することがよくありました。


機能としては、それで対応できます。
ところが、補聴器に記録されたデータログで実際の使用状況を確認すると、メモリーの使用割合が90対10ほどに偏り、ほとんど切り替えて使われていないことがありました。
そこで気づいたことがあります。
設定を作ったことと、その人が実生活で使えることは別です。
販売店側が「困ったらここを押してください」と説明して、それで終われば、販売店側の満足だけになってしまうことがあります。
お客様が毎日求めているのは、たくさんの機能を操作できることではなく、できれば何も触らなくても、普段の生活で困らずに使えること。
そう考えるようになってから、私自身の提案も変わりました。
多少気になる音があったとしても、まずは一つの設定で聞いていただき、必要な音を耳へ届けながら、ある程度は聞き流せるよう慣れていただく。
一方、生活の中で音環境が大きく変化し、ご自身で頻繁に操作することを望まれない方には、自動音量調整や環境に応じた自動プログラム切り替えを備えた機種を検討する。
反対に、ご自身で積極的に聞こえを調整したい方なら、アプリやマニュアル操作が生きてきます。
「この機能があります」だけではなく、その機能を、その人が本当に毎日使うのか。
ここまで考える必要があると、私自身がお客様の使用状況から教えていただきました。
実は、実耳測定についても同じような経験をしています。
私は導入当初、「良い測定なら最初から行った方がいい」と考え、補聴器を初めて使う方にも貸出段階から実耳測定を行ったことがあります。
結果はうまくいきませんでした。
その経験も含めて、実耳測定を導入しただけでは意味がない理由|補聴器専門店が語る1年間の失敗と学びで詳しく書いています。
4.そのランキングや点数、誰がどうやって決めた?
最近は補聴器について、
- 「音質 9.5点」
- 「雑音抑制 9点」
- 「会話性能 10点」
あるいは、
- 「おすすめ補聴器ランキング」
といった記事も見かけます。
確かに分かりやすいです。
ただ、一度考えてみてください。
その9.5点は、誰が、何を基準に決めたのでしょうか。
販売店であれば、自店の販売台数をもとにランキングを作ることはできます。
しかし、それがそのまま、あなたに合う補聴器のランキングになるでしょうか。
私はそうは考えていません。
- 価格を優先したい方。
- 言葉の明瞭感を優先したい方。
- できるだけ自然な音を求める方。
- 自分でアプリを操作したい方。
- 反対に、何も触らず補聴器に任せたい方。
優先順位は人によって違います。
実際、私はこれまでの使用経験から「自然な音を好まれるだろう」と予想していた方に、別メーカーの言葉を強調する機能を持った補聴器を試していただいたところ、
「こちらの方がいい」
と言われた経験があります。
過去に使っていたメーカーや音の傾向を重視しすぎることも、ときにはこちら側の先入観になります。
また、騒音下での聞き取りを良くしたいという方に、できるだけ操作が必要ない上位の自動機種をご提案したものの、一つ下のクラスに外部マイクを組み合わせた方が明瞭感を得られたケースもありました。
スペックが高いことと、その人が求めている問題を解決できることは同じではありません。
価格、明瞭感、自然さ、操作性、生活環境。
何を物差しにするかによって、順位は簡単に変わります。
実際の相談で、メーカーを変えることで選択肢が変わったケースについては、複数メーカーを比較するから分かる補聴器選びの実例でも紹介しています。
また、「高額な機種なら聞こえる」という単純な話ではない理由については、補聴器をつけても聞こえない理由|高額機種に頼る前に知っておきたいことでも詳しく書いています。
ランキングや点数を見るのであれば、その数字そのものより、「何を基準に、その評価になったのか」を見ることの方が大切だと思っています。
5.「実際のお客様を見ていないと書けない話」がある?
最後は、ここです。
補聴器というと、どうしても性能の話になりがちです。
AI、雑音抑制、指向性、チャンネル数、Bluetooth。
もちろん、どれも大切です。
でも、長くこの仕事をしていると、お客様が喜ばれるポイントが、こちらの予想とはまったく違うことがあります。
たとえばオーダーメイド補聴器には、耳から取り出すための小さなテグスがあります。
見た目だけを考えれば、細く、目立たなくした方がきれいです。
ところが、手先が動かしにくくなっている方には、それが使いにくいことがあります。
そんなときは、あえてテグスを持ちやすくしたり、先端の玉を大きくしたりします。
シェルも、見た目だけならツヤのある仕上げが良くても、滑りやすい方ならツヤを抑えた仕上げを考えることがあります。
左右を間違えやすい方なら、左右で本体色を変えることもあります。
耳かけ型なら、内側に小さな目印を付けるだけで喜ばれることもあります。
カタログの性能比較表では、ほとんど評価されない部分です。
でも、その方は補聴器を毎日触ります。
どれだけ高性能でも、自分で扱いにくければ、毎日の道具としては使いにくい。
逆に、ほんの小さな工夫が、その方にとって大きな価値になることがあります。
こういうことは、カタログを100ページ読んでもなかなか出てきません。
人と補聴器の間に実際に立つことで、初めて見えてくることだと思います。
では、この記事自身はどうなのか?
ここまで偉そうなことを書いた以上、この記事を書いている私自身も、同じ基準で見てもらわなければいけません。
「本当に現場にいるの?」
そう思われた方は、当店の記事も同じ基準で読んでみてください。
たとえば、私が実耳測定を重視するようになった経緯と、実際の調整事例については、補聴器を何度調整しても合わない──それは「測っていない」からかもしれませんで書いています。
ただし、実耳測定を導入すれば何でも解決するとは考えていません。
導入した私自身が失敗し、約1年間試行錯誤した経験については、実耳測定を導入しただけでは意味がない理由|補聴器専門店が語る1年間の失敗と学びにまとめています。
さらに、以前の私は測定機器の校正について「3年に1回程度で十分だろう」と考えていました。
ところが、実際のお客様の反応と測定結果がどうしても一致せず、校正に出したところ、約5dBのズレが見つかりました。
それをきっかけに考え方を変えた経緯は、補聴器測定機器の校正はなぜ必要?5dBのズレで判明で、そのまま書いています。
補聴器の価格や性能だけでは解決できない問題については、補聴器をつけても聞こえない理由|高額機種に頼る前に知っておきたいことで、語音明瞭度や生活環境、ワイヤレスマイクなども含めて実例を紹介しています。
そして、一つのメーカーや一つの音の考え方だけで決めない理由については、複数メーカーを比較するから分かる補聴器選びの実例をご覧ください。
私が、「専門家だから信じてください」と言っても、それだけでは何の証明にもなりません。
この記事で紹介した5つの基準を、そのまま当店の記事にも使ってください。
そして、他の補聴器の記事を読むときにも使ってみてください。
そのうえで、ご自身で判断していただければいいと思っています。
25年間、補聴器の現場にいて思うこと
私は補聴器メーカーでの勤務時代を含め、約25年間この仕事に携わり、これまで1万件以上の補聴器相談に関わってきました。
それだけ経験しても、「この方なら、この補聴器が合うだろう」
「この機能があれば、きっと便利だろう」という予想が、そのまま答えになるとは限りません。
むしろ経験を積むほど、私自身が大切だと感じるようになったのは、最初から答えを決めすぎないことです。
- 実際に話を聞く。
- 聴力や言葉の聞き取りを確認する。
- 必要であれば測定する。
- 実際に補聴器を使っていただく。
- そして、その方がどう感じたのかを聞く。
その繰り返しで、初めて分かることがあります。
生成AIによって、文章を作ること自体はこれからますます簡単になるでしょう。
メーカーの情報を集め、分かりやすく整理することもできます。
それ自体は、とても便利なことです。
だからこそ、補聴器の記事を読むときには、
「きれいに書かれているか」だけではなく、
「その文章の向こう側に、実際の現場があるか」。
そこも見てみてください。
AIが書いたか、人が書いたかを見破る必要はありません。
その情報が、実際のお客様を通過してきた情報なのか。
補聴器について調べるときの、一つの判断材料にしていただければと思います。
参考文献・参考資料
- 1.Pourhoseingholi MA, Killan C, Rafiee S, Hoare DJ, et al. Validity, reliability, and readability of Artificial Intelligence chatbots as public sources of information on hearing loss: a comparative evaluation of ChatGPT, Bing, Gemini, and Perplexity. International Journal of Audiology. 2025. DOI: 10.1080/14992027.2025.2569927.
- 2.Batuk IT, Karakuluk-Celebi I. Evaluating the efficacy of artificial intelligence in audiology: a head-to-head comparison of ChatGPT and Gemini on hearing aid management. International Journal of Medical Informatics. 2026;220:106633. DOI: 10.1016/j.ijmedinf.2026.106633.
- 3.American Speech-Language-Hearing Association(ASHA). Generative Artificial Intelligence (AI) for Clinicians in Audiology and Speech-Language Pathology. 生成AIの臨床利用、専門家による判断、エビデンス確認などに関するガイダンス。
- 4.Ferland J, Blouin A, Guitton MJ, Sharp A. The intelligent ear: AI and hearing aids information seeking and users’ discussion on social media. Patient Education and Counseling. 2026;149:109703. DOI: 10.1016/j.pec.2026.109703.




